うつ病の行動活性化療法とは
うつ病に対する行動活性化療法は、認知行動療法に含まれる新しい治療技法です。行動活性化療法は、うつ病に対し明らかな効果があることが明らかになってきました。ここでは、行動活性化療法について簡単に説明します。
例を挙げて説明しましょう。
うつ病患者さんが、一日中横になっています
この患者さんは、落ち込みや、気力の低下がありましたが抗うつ薬を投与してから気分の落ち込みはなくなりました。しかし、ほとんど外出せず、一日中横になっています。本人は、「気力がないので横になってしまう、外出もできない」と訴えます。この状態では、仕事をすることも、学校に通うことも、思うように家事をすることも出来ません。
行動活性化療法の特徴は、こうした活動性の低下を単なるうつ病の症状と捉え薬物療法の効果を待つのではなく、活動性の低下はうつ病に対する誤った対処行動(回避行動)とみなし、行動療法的にアプローチするところです。つまり、気分が落ち込むから動けないのではなく、活動をやめてしまうこと自体がうつ病のサイクルを持続させているのです。
回避行動とは
行動活性化療法では、気力の低下や疲労感を不快な感情からの回避行動と考えます。回避行動とは、文字通り不安や恐怖を体験することから逃げることです。対人恐怖症の人が他人との交流を避けたり、PTSDの人がPTSDが起こった状況をさけるのが回避行動の例です。
たとえば、家事が出来ないで一日中横になってしまう女性について考えてみましょう。彼女は散らかった部屋のなかで横になっています。何から手をつけてよいかわからず、自分の無力感に圧倒されています。彼女は、何かをしようとしても出来ないという不快な感情を回避するため横になっていると言えます。
うつ病で失職した人が仕事を探さず一日中家にこもっている場合では、仕事を探して失敗する不安を避けるために、気力が低下し横になっていると言えます。つまり疲労感に圧倒され、横になっていることは、起きていれば遭遇する不快な感情から逃れることができるというメリットもあるのです。
下の図は回避行動と気分の落ち込みの悪循環について示したものです。目覚めた時、気分の落ち込みを感じると起きた後の行動についてあれこれネガティブに考えてしまいます(外に出ても元気な人を見るとさらに落ち込むのではないか?家が散らかっているがとても片づけられない)。このようなネガティブな状況を避けるためまた横になってしまいます。
行動は気分に影響を与える
うつ病の症状が長引いている患者さんにおいて、ある種の行動が気分を改善することが知られています。どのような行動が気分を改善するかは人によって違います。たとえば、好きな音楽を聴く、人と会ってお喋りする、散歩をする、自転車に乗る、お菓子を作る、動物と触れ合う、土いじりをするなど様々です。共通しているのは身体を動かすことです。気分が行動に影響を与えることは事実ですが、行動も気分を変えるのです。
行動を活性化させるには
- 行動と気分の関係を知る
回避行動は自分でも気付かず自然にしてしまうため、自分の行動と気分の関係を客観的に観察することが重要です。具体的には。毎日の気分、活動をノートに記録し、気分を良くする行動と気分が落ち込む行動を調べます。次に避けていたことを、積極的に行い気分の変化を調べます。行動を試す時は“実験する”という冷静な態度が必要です。
気分がよくなる行動が見つかればそれを生活の中に組み入れていきます。
図に散歩を取り入れた時の気分の変化を示しました。目覚めたときに嫌な気分だった、思い切って散歩に出た、気分が少しだけ改善した。こうして行動と気分の関係をノートに記録します。 - 苦手な行動をスモールステップに分ける、難易度をつけて取り組む
うつ病では、家の片づけ、洗濯、事務手続きなど、すぐにしなくてもいいことは全く手が着けられなくなくなることがあります。散らかった部屋を目の前にして圧倒され、疲労感に襲われ何もできず横になってしまうのです。この場合、作業を出来るだけ細かいステップに分けて、段階的に取りかかるようにします。こうした方法が戦略的なやり方なのです。また、取りかかるべき課題をリストアップして難易度を5段階で評価します。そして、簡単な課題から取りかかるのも戦略的な方法です。