ネット依存
1990年頃から普及し始めたインターネットは私たちの生活様式を劇的に変えてしまいました。そして、その後登場したスマートフォンによりインターネットはさらに身近で、個人的なツールになりました。
インターネットの普及は生活を豊かにする一方で、負の側面があることも次第に明らかになってきましたが、その一つが、ネット依存と言う問題です。ネット依存とは、インターネットに接続されたIT機器の過剰な使用によって、健康、社会機能、人間関係などに顕著な問題が生じる状況を言います。ここでは、インターネット依存、スマホ依存、そして2019年WHOの国際疾病分類に登場したゲーム障害について簡単に説明します。
ネット依存のメカニズム
依存症と言えば、アルコール依存、薬物依存など依存性のある物質を体内に取り入れる依存です。依存物質は、脳内のドーパミンの神経伝達を促進し快楽が起こるという共通の脳内メカニズムがあります。
芸能人や音楽家が、覚せい剤を使用し逮捕され、多くの物を失った。というニュースを聞くと不思議に思うかも知れません。失うものが多く、自分にとって好ましくない状態を招くと分かっていながら何故彼らは、依存物質を止められないのでしょうか。その答えは簡単です、人間の行動をコントロールしているのは脳であり、依存物質は神経伝達に影響を与えることで脳をコントロールするからです。
ネット依存では、アルコールや薬物のように依存の脳内メカニズムは十分に分かってはいません。 しかし、似たような依存の脳内メカニズムがあると考えられています。ネット依存症者の脳を調べた研究では、前頭前野の活動性が低下しているという報告もあります。つまり、依存が起きてしまうと、意志の力だけでは簡単に行動を変えられないのです。
ネット依存の問題点、症状
身体的問題 | 視力低下、眼痛、めまい、頭痛、肩・首の凝り、腰痛、小指の変形、エコノミークラス症候群(長時間、足を動かさないため)、骨密度低下(歩行しないため) |
精神的問題 | 睡眠リズムの障害、日中の眠気、引きこもり、ネット以外のことに関する興味関心の低下、ネットが使用できない時のイライラ、不安 |
学校や仕事の問題 | 学生では、成績低下、遅刻、欠席、社会人では勤務中のネットの使用、仕事のミス |
経済的問題 | ゲーム症では課金による浪費 |
家族関係、人間関係 | 人間関係:親子関係の悪化、家庭内暴力、成人の場合は対人交流の減少、孤立 |
ゲーム症(障害)について
2019年5月世界保険期間 (WHO) は。オンライン、オフラインにかかわらず、持続的、反復的にゲームを過剰使用し、自己コントロール出来なくなった結果、日常生活に支障が出る状態になることを「ゲーム症(障害)」と呼び、一つの疾患として認定しました。
新しい国際疾病分類(ICD-11)の診断基準を下に示しました。
・ゲームの時間や頻度をコントロール出来ない ・日常生活の中で他の行動よりもゲームを最優先する ・生活に問題が出てもゲームを止めない これらの症状が1年以上継続、または繰り返される場合「ゲーム症(障害)」と診断する(重症の場合は1年未満でも診断する)。 |
しかし、1日中ゲームをしている人を病気と呼んでいいのか?という疑問もあります。治療が必要かどうかは、そこに何らかの問題が起きているかどうかが重要です。ゲームの上達が、収入を得る手段であれば、1日中ゲームをすることは理にかなっているため、障害ではないでしょう。実際に、e-sports のプロ選手が高収入を得る時代に、プロのゲーマーになると言って、1日中ゲームばかりしている場合、それが非現実的な目標であっても、本人には治療のモチベーションはないでしょう。 実際の臨床では、ゲームに依存し過ぎていると認めるが、自分ではコントロール出来ない、ゲームがコントロール出来ないことで生活上の問題が起きている場合、治療が必要になります。しかし、ゲーム症の場合、未成年が多く、親に生活が守られているため、不自由さや困難が生じず、問題解決を先延ばしする傾向があり、治療に結びつけることが困難な場合もあります。
ゲーム症では、発達障害の合併も多い
発達障害の人は、対人コミュニケーションに問題があり、現実生活で不自由さを感じています。一方で、ゲームという仮想空間の中では不自由さを感じることがありません。また、発達障害の人は、特定の物事に過剰な集中力がある場合があり、平均的な人に比べ長時間集中することが出来ます。その他、視覚優位な認知特性を有する、同じパターンの繰り返しを好む、などの脳特性がゲーム症と関連していると推測されています。
ネット依存の予防と治療
一度、依存が形成されると、そこから抜け出すのは非常に困難です。未成年者の場合は、家族でインターネット、スマホ、ゲームの使用に関するルールを作ることが大切です。スマホに関して言えば、スマホの利用時間制をチェックする、利用時間制限機能を用いる、SNSの通知をオフにする、自宅では、決めた時間になったらスマホを箱に入れて蓋をする。等の方法があります。
インターネット、ゲームに関しては、まず、使用する時間を決めます、その時間前に使用したくなったら、その時間までタイマーをかけ、パソコンやゲーム機に触らないようにします。使用したい気持ちが強くなったら、したい気持ちを100として、5分ごとに要求の程度を数値化します。5分ごとに100、100・・・95、と低下していくこと分かれば約束の時間まで我慢することが出来ます。
また、代わりになる行動:部屋を掃除する、トイレ掃除をする、お風呂を丁寧に洗う、料理を作る、洗濯をする、筋トレ、ストレッチ、ヨガ、太極拳をする、楽器を弾く、裁縫をする、手芸をする、アクセサリーを作る、ネイルをする、髪を染める、いらない物を捨てる、メルカリをする、大人の塗り絵をする、散歩をする、自転車に乗る、図書館に行く、ウィンドショッピングに行く、など手や身体を動かす行動をします。いずれにせよ、意志の力で我慢するのではなく、戦略的に使用時間をコントロールすることが大事です。
最近では、ゲーム業界も依存に対し、年齢別制限を用いる、啓蒙、啓発活動を行う。ペアレンタルコントロールの実施、などの取り組みをしています。
久里浜医療センターでの治療
独立行政法人国立病院機構の病院である久里浜医療センターは、アルコール依存など依存症に対する治療の専門病院として有名です。この病院では、2011年から、インターネットやゲーム依存者への専門的治療を行っています。インターネットやゲーム依存では、精神疾患の併存症が稀ではなく、精神科医による診察が必要です。また、併存症を認める場合には、その治療が優先されることもあります。ここでは、専門ディケア、集団療法、入院治療、治療キャンプ、家族会など多彩な治療手段をそろえています。
詳細は、久里浜医療センター(https://kurihama.hosp.go.jp/)のホームページをご覧ください。
インターネット依存度テスト(Internet Addiction Test (IAT))について紹介します。
このテストを行うことによってネット依存症の可能性があるかどうか推測できます。
インターネット使用に関する以下の質問にお答え下さい、この場合、利用する機器は、パソコン、スマートフォン、ゲーム機などオンラインで使用する全てを含みます。
各質問の1-20について、
全くない (1点)
まれにある (2点)
ときどきある(3点)
よくある (4点)
いつもある (5点)
の中から、最も当てはまる番号を1つ選んで下さい、自分に関係ない質問であれば「全くない」を選んでください。
- 気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか
- インターネットをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割をおろそかにすることがありますか
- 配偶者や友人と過ごすよりも、インターネットを選ぶことがありますか
- インターネットで新しい仲間を作ることがありますか
- インターネットをしている時間が長いと周りの人から言われたことがありますか
- インターネットをしている時間が長いため、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか
- 他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがありますか
- インターネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがありますか
- 人にインターネットで何をしているか聞かれたとき防御的になったり、隠そうとしたことがどれくらいありますか
- 日々の生活の心配事から心をそらすためにインターネットで心を鎮めることがありますか
- 次にインターネットをするときのことを考えている自分に気づくことがありますか
- インターネットの無い生活は、退屈でむなしく、つまらないものだろうと恐ろしく思うことがありますか
- インターネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり怒ったり、大声を出したりすることがありますか
- 睡眠時間をけずって、深夜までインターネットをすることがありますか
- インターネットをしていないときでもインターネットのことばかり考えていたり、インターネットをしているところを空想したりすることはありますか
- インターネットをしているとき「あと数分だけ」と言っている自分に気がつくことがありますか
- インターネットをする時間を減らそうとしても、できないことがありますか
- インターネットをしていた時間の長さを隠そうとすることがありますか
- 誰かと外出するより、インターネットを選ぶことがありますか
- インターネットをしていないと憂うつになったり、イライラしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えてしまうことがありますか
結果の判定
合計点の点数が高いほど依存の度合いが高いことになります
20-39:インターネット依存症ではない
40-69:インターネット依存症疑い
70以上:インターネット依存症