うつ病と食生活
うつ病の患者さんの治療をしていると、薬物療法を色々工夫してもうつ病が慢性に経過し、治りにくい患者さんが一定の割合で存在します。その中には、軽度の肥満と明らかな運動不足の方がいます。そして、その患者さんが運動をしてバランスの良い食事をして肥満が解消すると、うつ状態が改善しうつ病の薬を減量出来ることがしばしばあります。
運動習慣とバランスの良い食事は、高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病といった生活習慣病の予防になることはよく知られています。しかし、最近になって、うつ病にとってもバランスの良い食事が重要であり、うつ病の改善にとって大切な栄養素があることが分かってきました。
ω3不飽和脂肪酸
エイコサペンタ塩酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は、脂肪の多い魚や甲殻類に多く含まれています。EPAやDHAが心臓疾患の予防に有効であることはよく知られています。EPAやDHAのうつ病に対する効果を調べた研究では、うつ病に有効だったという報告もありますが、否定的な研究もあり、EPAやDHAを含むサプリメントの抗うつ効果は明らかになっていません。しかし、EPAやDHA製剤の適応である、脂質異常症を伴う気分障害では、EPAやDHAの補助療法を検討してもよいでしょう。
葉酸
血清中あるいは赤血球中の葉酸濃度が低いとうつ病になりやすいという研究報告があります。また、うつ病者のグループとそうでないグループを比較するとうつ病群で血液中の葉酸濃度が低いことが報告されています。葉酸の補充療法がうつ病に有効であるかどうかまだ明確になっていませんが、血液中の葉酸は測定が可能であり、うつ病で葉酸不足が疑われる場合は、葉酸を測定し、低下している場合には補充するべきでしょう。
ビタミンD
うつ病者のグループでは、そうでないグループに比べ血中ビタミンD濃度が低い人が多いことが明らかになっています。ビタミンDの補充療法がうつ病に有効かどうかはやはり明らかではありません、しかし、骨粗しょう症ではビタミンD補充療法を行うことを考えると、骨密度が低下しているうつ病患者で、血中ビタミンD濃度が低い場合には、より積極的にビタミンD補充療法を行うべきでしょう。
鉄
鉄はドーパミン代謝酵素の働きを助けるため、鉄不足によりドーパミン神経系の機能が障害されてしまいます。実際、日本で施行された大規模調査の結果、鉄欠乏貧血とうつ病の既往、ストレス症状との間に有意な関連が認められています。実際、鉄欠病の症状として、疲労感、焦燥感、興味関心の低下、集中力低下などの精神症状が出現します。産後うつ病と鉄欠乏の関係を調べた研究では、出産後に貧血を認める女性は、貧血を認めない女性に比べ産後うつ病の危険が高まる、フェリチン(貯蔵鉄)の量と産後うつ病の発症頻度に関連があるなどの報告があります。これらの事から、鉄欠乏性貧血を伴ううつ病の場合には鉄欠乏性貧血を治療することも重要です。
貯蔵鉄(フェリチン)は、肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えられています。鉄不足になると必要に応じて血液中に放出され赤血球を作るために利用されます。
鉄欠乏性貧血を治療すると、初めにヘモグロビン値が正常になり、次に血清フェリチン値が改善します。血清フェリチン値が改善しない状態で治療を中止すると、貧血が再発してしまうことがあります。貧血の治療は血清フェリチン値が正常になるまで行うことが重要です。